一、ムジナの上げた花火
 ムジナが花火を上げるということを、昔の人はよくいったものだ。渡船場でよく見たという人もあった。こいつはムジナだな、と思うと消えてしまう。わたしも実際見ました。
 田んぼを作っている時分、若い頃、田んぼに水を掛けているので夜中に見に行ったところ、「田中の池」の上の、山の方でポーンと音がしたんです。見ると、直径七、八寸くらいの水色の玉がパーッと上がって、見た瞬間に消えてしまった。あとで年寄りに聞いたら、それがムジナの花火だと言われたんだね。(和泉 荒井一 明治二十八年生)
 二、当番ですよ
 おばあさんによく聞きましたけどね、昔、名主さんかどこかへ、不寝番かなんかに当番に行ったらしいんですね。そしたら、そこの須田さんのところへね、ある晩、トントントンって、何どんとかって名前呼んで、「当番ですよ。当番ですよ」って、こう、戸をたたくんですって。そして、出てみると、だぁれもいない。そんで、当番だって言われたからね、一生懸命したくして行ってみると、「お前の出てくる番じゃない」って、言われたとかって。あれは、名前を呼んだのは、タヌキかムジナだろうってね。(岩戸 秋元ミヨ 明治三十八年生)
 三、しっぽで戸をたたく
 秋になると、ムジナがヒョウヒョウ鳴きながら、よくカシの実など食べにきたの。ムジナやタヌキは、昔は随分いたらしいよ。
 わたしらのおばあさんの頃には、綿の種を畑に蒔(ま)いて、綿の実ができると、それを糸に紡いでね、機で織ったんですって。秋の夜なべ仕事に、ブンブンブンブン糸車をまわしてね、糸を紡いでいると、タヌキだかムジナだかがやってきてね、トントン、しっぼで戸をたたいたって。(岩戸 小川キミ 明治三十六年生)