□昔の結婚式
ご祝儀の当日には、嫁入りに先立って、婿が嫁方の家に行って顔見せをする「婿入り」の習わしがあった。その日の朝とか昼間、婿と婿方の仲人や親戚代表など奇数の人数の一行が出かけて、嫁方の家で酒宴が行われ、婿方一同はいったん帰って嫁入りを待つ。
嫁入りは夕方から夜になり、長い道中を徒歩で行く場合には、「中宿(ちゅうやど)」といって、仲人の家などに寄って休み、衣装替えなどをした。マチジョロウさんと呼ばれる女の人が、ひと足先に行って、婿の家のジョウグチ(門口)で待つ。マチジョロウは嫁の姉か伯(叔)母などが務める。
婿方に着いた嫁は、マチジョロウに付き添われ、男蝶女蝶(おちょうめちょう)の役を務める男女児二人の掲げるタイマツの火の間を通るか、火を消して左右から下に置いて持つタイマツをまたいだりして、婿方の仲人に連れられ、勝手口から上がる。婿取りでは、婿は嫁方の仲人に導かれて嫁方の玄関から入る。昔の仲人は仮親ともいい、嫁婿双方に立てたものであった。
嫁婿の相盃(あいさかずき・三三九度)は、ヘヤと呼ばれる納戸の部屋か、座敷ならば屏風のかげで、仲人立ち会いのもとに男蝶女蝶の注ぐ盃で行われた。夫婦固めの盃をして式が終わると、座敷で披露宴となり、これを本座敷といって、両家の親戚を中心に行う。続いてその他の親戚、友人、近所の人たちを招いた披露宴が行われ、後(あと)座敷と呼んでいた。
披露宴では、まず「落ち着きの餅」と呼ばれる餅を入れた吸い物が出て、その後、蛤(はまぐり)の吸い物、つぎがサヨリなどの吸い物で、最後に青菜か結び昆布などの吸い物になる。吸い物が変わるたびに嫁はお色直しをする。婿と嫁の膳にはお高盛りの椀が出て、嫁はしるしだけ箸を付けるが、この高盛り飯は、両人で翌日になっても食べきらなければならぬものとされていた。披露宴は、よそ行き程度の銘仙などを着て嫁が最後のお色直しをし、「嫁の茶」といって、やがて一同にお茶を入れてまわると、お開きになった。