令和7年新春対談(春風亭昇太さん)
春風亭昇太さんとの新春対談(令和7年1月1日号広報こまえ)
令和7年1月1日号広報こまえの新春対談企画では、落語家である春風亭昇太さんと松原市長との対談の内容を掲載しています。
広報こまえでは紙面の都合で掲載しきれなかった内容も含めて、対談全体の内容を掲載しています。ぜひこちらもお楽しみください。
狛江市とのつながり
【市長】
あけましておめでとうございます。毎年恒例の新春対談ということで、今年は落語家の春風亭昇太さんをお招きしています。どうぞよろしくお願いします。
【春風亭昇太】
よろしくお願いします。
【市長】
狛江市民の皆さんからすると、春風亭昇太さんと狛江市にどんな関係があるのか知らない方もいらっしゃると思います。かつて狛江にお住まいになっていたそうですね。
【春風亭昇太】
そうなんです。大学を出て落語家になってすぐのときに狛江市に約3年間住んでいました。まだ、今のように街が発展する前でしたし、私もお金がなかったんですが、本当に楽しかったですね。
【市長】
大学は東海大学とのことですが、狛江を選ばれた理由は何かあったのでしょうか。
【春風亭昇太】
大学時代は小田急相模原に住んでいたんです。落語家になって東京に近い方がいいと思って小田急沿線で探していて、狛江駅で下車したら降っていた雨があがって急に晴れたんですよ。巡り合わせがいいなと思って、すぐに決めて狛江に引っ越してきました。
【市長】
そういう運命的なことってありますよね。
【春風亭昇太】
僕は大学で日本史を勉強していたのですが、狛江は狛江古墳群が有名で、古墳の多い場所は住みやすい場所が多いんですよ。
【市長】
狛江に住まわれて、古墳の歴史にも触れていただいたんですね。
【春風亭昇太】
はい。兜塚古墳の近くに住んでいました。当時はまだ狛江駅が高架になる前で、電車が地上を走っていました。駅の改札前に踏切があって、朝は目の前で何本か電車が行ってしまうという、悲しい思いもしました。でも、今は高架になり、踏切もなくなりましたので、すっかり良くなりましたね。
【市長】
昔はそうでしたね。私も朝、狛江に降りてきて踏切で足止めになってしまったことは何度もあります。
【春風亭昇太】
もしかしたら線路を挟んで向かい側にいたかもしれませんね(笑)。
【市長】
そうかもしれませんね(笑)。
【春風亭昇太】
それから何度か落語会で狛江に呼んでいただいて、来る度に懐かしく思っています。そして、「兜塚古墳の近くに住んでいました」と言うと、「あー、うんうん」みたいになるんですよね。あっという間に距離が縮まるんです。すごくありがたい街だと思います。
【市長】
確かに狛江に住んでいたんだって知るとあっという間に距離が縮まりますね。
狛江市の思い出
【市長】
狛江市の思い出がほかにありましたら教えてください。
【春風亭昇太】
僕が狛江に住んでいた時は、落語家になりたての頃で前座の修行中だったので、お金がなかったんだけど、お金のない楽しさみたいなものがありました。狛江駅南口のミートステーションで持ち帰り用のお肉の煮込みを買って、当時、踏切を渡ったところに酒屋があったので、そこで安いお酒を買って、それでぶらぶらと兜塚古墳の近くのアパートまで歩いて帰って、ミートステーションで買ったおみやげをつまみに食べながらお酒を飲んだりもしましたね。
【市長】
ミートステーションは他の人との対談でもよく話に出てきますよ。
【春風亭昇太】
そうなんですか。あと、当時のアパートはエアコンもない部屋だったので、夏になると図書館に行って涼みながら本を読んだりと、お金がなかったんだけど、無いなりにすごく楽しかったんですよね。本当に住みやすかったし、不便だったのは小田急線が立体交差でないところぐらいかな。踏切が開かなかったから(笑)。でも今はそれが解消されているの
で、さらに住みやすくなっていると思います。西友はもうないですかね。
【市長】
西友は今はもうないですね。今は駐車場になっています。
【春風亭昇太】
あの頃はよく西武ライオンズが優勝していたので、優勝するたびにセールをやっていたんで、安い時に食材とかをよく買っていましたね。あと、銭湯にも通っていました。
【市長】
いまは銭湯もだいぶ変わりましたよ。昔の銭湯とは違って随分とおしゃれになっていますよ。
【春風亭昇太】
そうなんですか。狛江には結局3年いたと思うのですが、本当に楽しい日々でしたね。
落語家になるきっかけ
【市長】
落語家になるきっかけは何かあったのでしょうか。
【春風亭昇太】
東海大学の時ですね。僕は中南米の国が好きだったので、スペイン語を第二外国語に選んで、在学中に中南米に旅行できればいいなと思って、ラテンアメリカ研究部に入ろうとしたんですね。そうしたら、たまたま部室に誰もいなかったので、帰ろうとしたら隣の部室の人が出てきて、「ラテンアメリカ研究部の人たちはご飯を食べに行っていて今いないから、うちの部室で遊んでいったら」と言ってくれて、そこが落研(落語研究部)だったんです。
【市長】
そうだったんですか。もともと落語に興味があったわけではなかったんですね。
【春風亭昇太】
落語には全然興味がなかったですね。でも先輩たちが面白そうだったから、まあここでいいやと思って。嫌だったらやめればいいやみたいな感じで入りました。落語を聴いたこともなかったですし、たまたま落研に入ったのですが、落語を聴きに行ったら、すごく面白くて、そのまま好きになっちゃいました。
【市長】
落研の方は古典落語ですか、それとも新作落語ですか。
【春風亭昇太】
両方やっていましたね。古典落語をベースにして、学内の人にしか分からない新作落語を書いたりもしました。
【市長】
古典落語は覚えるのが大変そうですよね。
【春風亭昇太】
新作落語はゼロから物語を作らないといけないので、新作落語を書くことに比べたら、古典落語を覚えることは楽な方ですよ。
子ども時代や学生時代のこと
【市長】
小さい頃はどのような子どもだったのでしょうか。
【春風亭昇太】
静岡の清水という街で育ったのですが、子どもの頃は漁師になるのが夢だったんです。友達のお父さんが漁師で普段は船に乗っていて、たまに帰ってくるとその友達がおもちゃとかを買ってもらっていたんですよ。僕のお父さんはサラリーマンだったので毎日家にいるんですが、いつもおもちゃを買ってくれるわけではないじゃないですか。だから漁師っていいんだなと思って、両親に漁師になりたいって言ったら、うちの母親が「漁師はね、冷たい冬でも朝早く起きているんだけど、お前は起きられるのか」って言われて、それは無理だなと思って諦めました。
【市長】
なるほど。子どもらしいエピソードですね。
【春風亭昇太】
それに漁師の子どもになるのがいいのであって、自分が漁師になりたかったわけではないことに気付いて(笑)。子どもの頃から歴史が好きだったので、社会科の先生か学芸員になりたいと思うようになりました。
【市長】
そうですか。それで大学で日本史を勉強されたんですね。
【春風亭昇太】
はい、そうです。そういえば、今、東海大学の大学生なんです。大学4年生の時に落語家になってしまったので、実は大学を中退しているんです。東海大学の静岡キャンパスに客員教授として講義に行っていたんですが、その時に復学制度というのがあると聞いて、「今から復学して単位を取ったら卒業ですよ」って言われたので、復学をすることにしました。ついこの間の10月から大学生になって、今4年生です。
【市長】
それはとてもいいことですね。もう一度、大学生になってみて、どのように感じますか。
【春風亭昇太】
大人になって勉強するというのは楽しいですね。やる気が違うんですよ。当時は、親が学費を払っていましたが、今自分で学費を払っているので、やる気が全然違うんです。やっぱり勉強するというのは、当時はあまり分からなかったんですけれど、一度働いてみるとすごく楽しい時間なんだなって改めて気付きました。僕はずっと歴史が好きだったので、歴史の勉強とかお城の勉強とかは大学を辞めてからも続けていたんですよ。自分が好きなものを勉強するのは簡単じゃないですか。でも興味がなかったものをどういうふうに僕が感じるのかなと思ったのですが、意外と面白くて。勉強したことは落語の枕としてしゃべることもできるので、学費を払った元は取りました(笑)。
【市長】
大学の落研には入っていないんですか。
【春風亭昇太】
落研に入りたかったんですけどね。静岡キャンパスには落研がないんだそうで。
【市長】
大学の学園祭に行くと、落研が落語をやっていますよね。落研がないのは寂しいですね。
【春風亭昇太】
そうですね。湘南キャンパスの方には落研があって、まだ後輩たちがやっているんです。静岡キャンパスにも昔はあったんですけど、今はないそうです。
【市長】
では、落研を作ったら、多分すごい人数の部員が集まりますよ。
【春風亭昇太】
そうなんですよね。でも春風亭昇太が落研を作るのもどうかなって(笑)。
落語の楽しみ方
【市長】
落語の楽しみ方を教えてください。
【春風亭昇太】
落語を難しいと思っている方が時々いて、「どんな勉強をしていったらいいんですか」とか聞かれたりするんですよ。ある人からは、「普通の言葉をしゃべっているんですか」とか言われたり。能や狂言、歌舞伎じゃないので、誰でも分かる普通の日本語をしゃべっていて、何も勉強はいらないですよと。落語は場面を想像して、聴いていただく芸能なので、本を読むのが好きっていう方や、あるいはパソコンなどでいろいろ検索して調べたりすることが好きだっていう方には楽しんでもらえるんじゃないかなと思います。
【市長】
落語を聴いている人がそれぞれ自分の頭の中で想像することは大事ですよね。
【春風亭昇太】
今は想像しなくてもいい時代になっているじゃないですか。なので、現代人に必要な脳のトレーニングにはなると思います。
【市長】
落語を楽しみながら、脳のトレーニングができるというのは高齢者にもいいかもしれないですね。
【春風亭昇太】
落語はお笑いの一部みたいに括られているんですけれど、実はそうじゃなくて、どちらかというと演劇なんですよね。落語は世界で最も省スペースでできる演劇なんですよ。演者と演出家の両方を一人でやりつつ物語を紡ぐという、どちらかというとストーリーテラーなんですけれど、テレビを見てる人からはお笑いの一部として見られてしまう。落語家だけでやっている番組だとみんなどのようにしゃべったらいいのかが分かるので、「笑点」はうまくいっているんですよね。
【市長】
「笑点」はテレビでやっていますけれど、今は昔ほどテレビで落語をやらなくなりましたね。
【春風亭昇太】
落語は基本テレビ向きじゃないのでね。落語はやっぱり想像の世界なので、聴いている方が頭の中で場面を想像しないといけなくて、女性の役でしゃべったり、子どもの役でしゃべったりしてるわけだから、聴く側の想像力が必要なんですよね。テレビはなるべく想像しなくても済むようにできています。普段から落語を聴いている方はイメージしやすいと思うんですが、そうでない方がテレビで落語を見るかといったらなかなか難しいんですね。テレビ向きなところをチョイスしたのが、「笑点」という番組になるんだと思うんです。
【市長】
まずは寄席に来て落語を聴いてもらうことが一番ですね。手振りや、叩いたり、音がしたりと実際に感じられますからね。
【春風亭昇太】
生で見に来てもらうのがやっぱり一番ありがたいです。僕たちの仕事って、目の前のお客さんに合わせてしゃべる仕事なので、その会場のお客さんに向かってしゃべっているんですよね。その会場に来ていただいた当日にお客さんを見て話す内容を決めているんです。その辺がお芝居と違うところで、ネタは決めずに舞台に上がってから決めるぐらいな感じなんです。頭の中に2、3個ネタを入れてそれで高座に上がって、「枕」と言われる導入部の世間話みたいな話をしながら、こっちのネタが合っているんじゃないかなっていうふうにして選んでしゃべっています。
【市長】
私もいろいろなところで挨拶のスピーチをするんですけれども、一生懸命しゃべっていても反応がないときがあって、そのような場合には話を少し変えていくとか工夫をしています。
【春風亭昇太】
本当にそれと同じです。このネタをしゃべって、違うなと思うと話を変えてみたりします。いくつかストックがないとね。市長はいろんなところで挨拶されるから大変ですよね。
【市長】
そうなんですよ。新年の挨拶では春風亭昇太さんの話題も入れてみようと思います。お客さんの心をつかむときに、他にどういう工夫がありますか。
【春風亭昇太】
テレビに出させていただいていると、お客さんが我々の顔は知っているという状況がもうほぼつかみと同じになっています。出てきたところでもう昇太が出てきたっていうことで、つかみをしなくていいというのは、やっぱりテレビにお世話になっているおかげではありますよね。
「笑点」のこと
【市長】
いま「笑点」の司会をやられていますが、あれだけのメンバーの中で司会は難しいと思うんですが、いかがですか。
【春風亭昇太】
言うこと聞かないんですよね(笑)。
【市長】
あれだけのメンバーを束ねていくって大変だと思うんですよね(笑)。
【春風亭昇太】
全然束ねられていないです(笑)。
【市長】
司会になるというのは結構大変だったんじゃないですか。
【春風亭昇太】
本当に僕もすごいびっくりだったんですけどね。
【市長】
プレッシャーも相当おありだったんじゃないでしょうか。
【春風亭昇太】
そうですね。司会を引き受ける時に「視聴率が下がっても怒らないでくださいね」と言ったんです。ただ、おかげさまで視聴率も良くて。
【市長】
「座布団1枚持って来て」とか「1枚持っていって」とか言うじゃないですか。どういう感じで決めているんですか。
【春風亭昇太】
「笑点」は公開収録なので、その日その日でお客さんの雰囲気も変わりますし、日によって受け方が全然違うんですよ。テレビだとスタジオで収録している番組もあるじゃないですか。あれはどちらかというとお客さんがすごい協力的で、割となんでもかんでも笑ってくれるんですけど、「笑点」は千人ぐらいお客さんが来ているので、その日によってものすごく受ける時と、大人しいお客さんの時もあって、全然違うんですよね。その日その日で笑いの量であるとか、質が変わるんです。それに合わせて座布団を渡しているので、毎回同じようには座布団は渡せないですね。
【市長】
それぞれの落語家にファンの方がいるので、座布団を取らないでみたいなことも言われたりするんですか。
【春風亭昇太】
お客さんにはよく言われますよ。私あの人好きだからもっと座布団あげてとか、なんでこの間取ったのって怒られたりしますけど、まあ仕事なんでね(笑)。
【市長】
でも楽しくやっていますよね。
【春風亭昇太】
楽しいですね。先輩たちは僕が入門した時から僕のこと知っているわけです。だから、流派や所属団体は違うんですけれど、落語家だけでやっているので、なんか分かるんですよね。だから、他の業種の方が入ってたら、ああいう感じにはならないんじゃないかなと思います。
【市長】
そうですよね。「笑点」は長寿番組ですので、それを引き継いでいくというプレッシャーや意気込みも相当なものがあると思います。
【春風亭昇太】
子どもの頃から見ていた番組なので、そこに今、自分が出てるというのが、ちょっと信じられない気がするんですけれども、本当におかげさまで今も視聴率もいいですし、「笑点」に出てるっていうことで街を歩いていてもいろんな方に声掛けていただいたり親切にしていただいたり、楽しくやらせていただいています。
落語界の今後の展望について
【市長】
落語界の今後の展望をお聞かせいただければと思います。
【春風亭昇太】
どんな世界も同じだと思うんですが、若い人が出てこないとその団体は伸びていかないですよね。今、落語芸術協会はいい若手がすごく増えているんですよ。若い人たちにどんどん頑張ってもらいたいですね。
【市長】
いまではお弟子さんも多いのでしょう。
【春風亭昇太】
弟子は今10人います。弟子はあんまり取りたくなかったんですけどね。
【市長】
後輩を育てることも大切ですよね。
【春風亭昇太】
そうですね。でも弟子を見てると若い頃の自分の駄目さ加減がよく分かりますね。弟子が何かすると、どうしてこういうことをするのかなって思いながら、でも僕もこれやってたなと。僕も経験しているので、ズルをするとすぐ分かるんですよね。分かるんだけれど、こういうズルを僕もしてたなと思って。だから僕の師匠も僕のことをこういうふうに見ていたんだなと分かりまして、弟子を取ってから自分の師匠をありがたいなと思う気持ちが強くなりましたね。
【市長】
師匠も立派な方ですよね。
【春風亭昇太】
はい。私の師匠は春風亭柳昇といいまして、弟子は師匠の究極のファンなんです。師匠の近くで一緒に仕事をさせていただくことができて、本当にありがたかったですね。
【市長】
芸というのものは、悪い言い方かもしれませんけれど、盗み取る部分もありますよね。
【春風亭昇太】
僕も師匠から直接話を習ったことはそんなに数あるわけではないんですよ。ほかのお弟子さんに聞いても、師匠から全く習っていない方もいるんですよね。でも師匠を見ていたら、この世界でどんなふうに生きればいいのかというのは分かるんです。滑走路までは師匠に造っていただいて、あとはどのぐらい自分で飛び立てるのかというところでしょうか。
【市長】
そこは本人の努力も必要ですよね。
【春風亭昇太】
準備をしていないといけないですし、いつか来るチャンスのために、たくさんストックしておかないといけないですからね。
【市長】
確かにそうですよね。そういえば、実は私は地元でお囃子やっているんです。
【春風亭昇太】
え!そうなんですね。市長は何をやられているんですか?
【市長】
私は太鼓でして、出囃子をやっています。この前、市民まつり前日に前夜祭ということで、狛江駅前でお囃子をやったときに私もそこで叩きました。
【春風亭昇太】
今度のうちの前座の人数が足らなかったら叩きに来てください(笑)。
【市長】
ちょっとした間があるので、落語の出囃子はタイミングが難しいと思いますね。
【春風亭昇太】
お話の邪魔にならないように叩くというのが難しいんですよ。あれも経験なんでね。落語家は前座の出囃子の太鼓が必修科目なので、出囃子は全員やります。
【市長】
流派とかはないですよね?
【春風亭昇太】
流派はないですね。リズム感は才能に左右されるので、いくらやっても下手な人は下手なんですよ。うまい後輩が入ってくると、「じゃあ、勉強させてあげるからお前叩いてみて」って言っています(笑)。
【市長】
そうなんですか(笑)。郷土芸能の担い手は高齢化しているので、郷土芸能の保存会に20代や30代の若い人が入ってくると40年50年と保存会が持つんですよ。太鼓は80代ぐらいまで叩けますからね。
【春風亭昇太】
その点は落語家も同じで、死ぬ前日まで落語ができますからね(笑)。定年も任期もない仕事なので。自分の体調さえ整えばですけれど、でもそこが一番大事かもしれないですね。
子どもたちや若い人たちに向けて
【市長】
子どもたちや若い人たちが将来夢に向かって頑張っていくためにはどういう気持ちが大切であったりとか、どういうことを心掛けていなければいけないというようなことはありますか。
【春風亭昇太】
先入観を持たないということがいろんなことに手を広げる一番いい方法なんじゃないかなと思っているんですよね。
僕は子どもの頃は落語に全く興味がなかったんです。もともと僕は漫才とか吉本新喜劇とか大好きで子どもの頃からよく見てたんですが、落語はおじいさんやおばあさんが見るもので、僕が見たって面白くないだろうと思って見ていなかったですね。大学時代に落語研究部の先輩の落語会に連れて行かれて落語を見たらすごく面白かったんです。だから勝手に僕が落語はつまらないものだと思っていただけだったんです。だから僕はその経験があるので、人に誘われたらなるべく断らないようにしているんですよ。
【市長】
確かにそのとおりですよね。好奇心とか偶然の出会いで人生が変わることというのはよくありますよね。そのきっかけを作るのは先入観を持たないことであったり、いろんなことに興味や関心を持つことであったり、思い切って一回試してみることも大事ですよね。
【春風亭昇太】
そうなんです。もしかしたら勝手に自分には合わないと思っているだけですごく自分に合っているものとか、勝手につまらないと思っているだけで実は楽しいものというのは本当はきっと山ほどある。今はまだ出会っていないだけだと思うので、とにかくいろんなことを見聞きする中で、自分に合った仕事とか、自分にあった夢を掴むことができるんじゃないかなと思っています。
【市長】
そうですよね。小さい頃から描いた夢に向かって努力をして掴む人もいるし、小さい頃の夢ではなく、成長する過程で出会ったことに興味が湧いて、その夢に向かって行くこともありますよね。
【春風亭昇太】
いま好きなものが自分に合っているかどうかは分からないですからね。自分に合った仕事を探すことは人生で一番の面白いことじゃないですか。そのためにはいろんな経験をたくさんして、先入観を持たないで、物事を見ることが大事だと思います。私も小さい頃の自分から見て、自分が落語家になっている姿は全く想像してなかったですからね。
【市長】
落語に出会って、それを一生懸命やってきたという努力が実を結んで、全国にも多くのファンがいる。それにとどまらず、まだまだその高みもあるのでしょう。
【春風亭昇太】
そうですね。僕は落語家という職業が合っていたようで、すごく今楽しくてね。そして落語が楽しいことはもう分かったので、今は65歳ですけど、まだ見ていないものや経験していないものがまだまだたくさんあるはずなんで、それを見てからあの世に召されたいですね(笑)。
【市長】
落語以外にも高みがあるんですね。
【春風亭昇太】
落語一筋とかは全く考えてないです。落語以外の楽しいことをたくさん経験したいですね。
【市長】
なるほど。それで、もう一度に大学に入学されたのですね。
【春風亭昇太】
そうですね。
【市長】
若い時の大学時代では出会えなかったことでも、今になって大学で出会えることはありますよね。では逆に若い時にやっておいたことが大人になって役に立ったことは何かありますか。
【春風亭昇太】
クラブ活動やサークル、習い事とかはやっておいて損はないですよね。それはすごく役に立っていますね。勉強よりも役に立っていますね。
【市長】
人との関わりもたくさんありますからね。
【春風亭昇太】
大学時代のサークルとかコミュニティはいまだに付き合いや交流があります。実は僕が高校3年生の時に、高校の先生が「お前はうちの高校を出て何がしたいんだ」と言うので、僕はその時に勉強が好きな方じゃなかったので「働きたいです」と言ったんです。そしたら「一応、君の学力だったら大学に入れるんだけど、今やりたいことがないんだったら大学に入っておけ」と言ってくれたんですよね。「君は今、高校生で、付き合ってる人たちはここの地区の人達だけだけど、大学に行ったら他県からも来るし、いろんな職業の子どもたちやいろんな経験した人たちが来るので広がりが違う。だから今、目標がないんだったら大学に行ったら面白いよ」と言ってくれて、そんなものかなと思って大学に行ったら、確かに大学に行ったから落語家になっているわけだし、大学に行ってからの仲間とか知り合いが多くなって、広がりが全く違ったんです。
【市長】
大学に行かずに働いていたら、今の人生とは違う人生だったということですよね。
【春風亭昇太】
はい。少なくとも落語家になるきっかけはなかったと思うんですよね。もちろん高校を出て働いていたら、もっと楽しい人生だったかもしれませんが(笑)。ちょっとしたきっかけで人生は変わるので、その場面場面で頑張ればいいと思うんですけど、今、振り返ると今の僕にとっては大学に入ったことは良かったなと思います。
趣味について
【市長】
今、趣味は何かおありですか?
【春風亭昇太】
趣味は多過ぎちゃってね。落語が趣味だったのに今は職業になってしまったので、趣味が一つなくなってしまったんですけど、中学生ぐらいからずっとお城を見に行くのが好きです。お城も天守閣とか石垣とかが残っているお城じゃなくて、戦国時代のお城が好きなんですよね。そういうお城って本当に山ほどあるんですね。日本に何万って数があるんですよ。全国にお仕事で呼んでいただくたびにその街のお城を見て回るので、交通費がかからない趣味です(笑)。
【市長】
お城はどこが一番好きなんですか?
【春風亭昇太】
数が多過ぎてしまって、ここが一番好きっても言うのが難しいんですけど、この辺りでお城の遺構がよく残ってるのは深大寺です。深大寺のすぐ近くに深大寺城の跡地があります。お城好きな人にとっては都内では割と有名なお城なんだそうです。狛江は残念ながらお城の遺構が残っているところはないですよね。
【市長】
狛江は古墳は多いですが、お城はないですね。
【春風亭昇太】
そうですね。狛江も昔は狛江百塚と言われたぐらいで、狛江古墳群もあり古墳の多い街ではあるんですが、今、残念ながら数もだいぶ減り、完全な形で残ってる古墳は少ないと思うんですが、史跡なので古墳は大事にしていただきたいなと思いますね。
【市長】
白井塚古墳という場所があって、最近調べたら、直刀(ちょくとう)が出てきたんですよ。どのように保存するかを検討しているところですが、こういったものを保存するのは結構大変なんですよね。
【春風亭昇太】
史跡の整備はお金も時間もかかるので大変なんですよね。その土地の歴史っていうものは他の街にはないものですからね。
【市長】
他にも趣味はありますか。
【春風亭昇太】
あと釣りもやっていますし、プラモデルを作るのも好きだし、本を読むのも好きだし、レコードを聴いたりするのも好きだし。あとコロナ前まではボクシングもやっていたんですよ。だいぶコロナも収まってきたので、そろそろまた行こうかなと思っています。
【市長】
いろんなジャンルの趣味がありますね。リフレッシュをしないといけない時に身体を休めたり、精神的に休めたりするときに趣味に没頭するのはいいかもしれませんね。趣味についてこれ以上聞いてしまったら1月1日号の新春対談には話が入りきらないですね(笑)。
【春風亭昇太】
2月もお願いします(笑)。
今年の目標やメッセージ
【市長】
今年の目標はありますか。
【春風亭昇太】
大学卒業です(笑)。
【市長】
最後に狛江市民の皆さんにメッセージをいただければと思います。
【春風亭昇太】
僕が住んでいた頃に比べると本当に見違えるくらいに街が発展しました。古墳がある街というのも、他にはない魅力ですので、狛江市民の方にはこれからも大事にしていただけるとありがたいですね。
【市長】
今日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。
【春風亭昇太】
こちらこそありがとうございました。
●プロフィール●
春風亭昇太さん
静岡県静岡市清水区(旧清水市)出身
20代前半に狛江市居住
落語家(落語芸術協会会長)
昭和57年師匠である春風亭柳昇さんに入門
平成4年真打ち昇進
新作落語の創作活動に加え、独自の解釈で古典落語に取組み、文化庁芸術祭大賞を受賞するなど、新作・古典問わず高い評価を得ている。さらに、演劇やテレビドラマへの出演も多く役者としても活躍し、ミュージシャンとのライブも意欲的に行うなど、ジャンルを越えて積極的に活動している。
現在「笑点」(日本テレビ)、ラジオビバリー昼ズ(ニッポン放送)にレギュラー出演中