新春対談

プロフィール

春風亭昇太さん

静岡県静岡市清水区(旧清水市)出身
20代前半に狛江市居住
落語家(落語芸術協会会長)
昭和57年師匠である春風亭柳昇さんに入門
平成4年真打ち昇進
新作落語の創作活動に加え、独自の解釈で古典落語に取り組み、文化庁芸術祭大賞を受賞するなど、新作・古典問わず高い評価を得ている。さらに、演劇やテレビドラマへの出演も多く役者としても活躍し、ミュージシャンとのライブも意欲的に行うなど、ジャンルを越えて積極的に活動している。
現在「笑点」(日本テレビ)、「ラジオビバリー昼ズ」(ニッポン放送)などにレギュラー出演中

狛江市とのつながり

市長
 あけましておめでとうございます。毎年恒例の新春対談ということで、今年は落語家の春風亭昇太さんをお招きしています。どうぞよろしくお願いします。

春風亭
 よろしくお願いします。

市長
 狛江市民の皆さんからすると、春風亭昇太さんと狛江市にどんな関係があるのか知らない方もいらっしゃると思います。かつて狛江にお住まいになっていたそうですね。

春風亭
 そうなんです。大学を出て落語家になってすぐのときに狛江市に約3年間住んでいました。まだ、今のように街が発展する前でしたし、私もお金がなかったんですが、本当に楽しかったですね。

市長
 大学は東海大学とのことですが、狛江を選ばれた理由は何かあったのでしょうか。

春風亭
 大学時代は小田急相模原に住んでいたんです。落語家になって東京に近い方がいいと思って小田急沿線で探していて、狛江駅で下車したら降っていた雨があがって急に晴れたんですよ。巡り合わせがいいなと思って、すぐに決めて狛江に引っ越してきました。

市長
 そういう運命的なことってありますよね。

春風亭
 僕は大学で日本史を勉強していたのですが、狛江は狛江古墳群が有名で、古墳の多い場所は住みやすい場所が多いんですよ。

市長
 狛江に住まわれて、古墳の歴史にも触れていただいたんですね。

春風亭
 はい。兜塚古墳の近くに住んでいました。当時はまだ狛江駅が高架になる前で、電車が地上を走っていました。駅の改札前に踏切があって、朝は目の前で何本か電車が行ってしまうという、悲しい思いもしました。でも、今は高架になり、踏切もなくなりましたので、すっかり良くなりましたね。

市長
 昔はそうでしたね。私も朝、狛江に降りてきて踏切で足止めになってしまったことは何度もあります。

春風亭
 もしかしたら線路を挟んで向かい側にいたかもしれませんね(笑)。

市長
 そうかもしれませんね(笑)。

春風亭
 それから何度か落語会で狛江に呼んでいただいて、来る度に懐かしく思っています。そして、「兜塚古墳の近くに住んでいました」と言うと、「あー、うんうん」みたいになるんですよね。あっという間に距離が縮まるんです。すごくありがたい街だと思います。

市長
 確かに狛江に住んでいたんだって知るとあっという間に距離が縮まりますね。

落語家になるきっかけ

市長
 落語家になるきっかけは何かあったのでしょうか。

春風亭
 東海大学の時ですね。僕は中南米の国が好きだったので、スペイン語を第二外国語に選んで、在学中に中南米に旅行できればいいなと思って、ラテンアメリカ研究部に入ろうとしたんですね。そうしたら、たまたま部室に誰もいなかったので、帰ろうとしたら隣の部室の人が出てきて、「ラテンアメリカ研究部の人たちはご飯を食べに行っていて今いないから、うちの部室で遊んでいったら」と言ってくれて、そこが落研(落語研究部)だったんです。

市長
 そうだったんですか。もともと落語に興味があったわけではなかったんですね。

春風亭
 落語には全然興味がなかったですね。でも先輩たちが面白そうだったから、まあここでいいやと思って。嫌だったらやめればいいやみたいな感じで入りました。落語を聴いたこともなかったですし、たまたま落研に入ったのですが、落語を聴きに行ったら、すごく面白くて、そのまま好きになっちゃいました。

市長
 落研の方は古典落語ですか、それとも新作落語ですか。

春風亭
 両方やっていましたね。古典落語をベースにして、学内の人にしか分からない新作落語を書いたりもしました。

市長
 
古典落語は覚えるのが大変そうですよね。

春風亭
 新作落語はゼロから物語を作らないといけないので、新作落語を書くことに比べたら、古典落語を覚えることは楽な方ですよ。

子ども時代や学生時代のこと

市長
 小さい頃はどのような子どもだったのでしょうか。

春風亭
 静岡の清水という街で育ったのですが、子どもの頃は漁師になるのが夢だったんです。友達のお父さんが漁師で普段は船に乗っていて、たまに帰ってくるとその友達がおもちゃとかを買ってもらっていたんですよ。僕のお父さんはサラリーマンだったので毎日家にいるんですが、いつもおもちゃを買ってくれるわけではないじゃないですか。だから漁師っていいんだなと思って、両親に漁師になりたいって言ったら、うちの母親が「漁師はね、冷たい冬でも朝早く起きているんだけど、お前は起きられるのか」って言われて、それは無理だなと思って諦めました。

市長
 なるほど。子どもらしいエピソードですね。

春風亭
 それに漁師の子どもになるのがいいのであって、自分が漁師になりたかったわけではないことに気付いて(笑)。子どもの頃から歴史が好きだったので、社会科の先生か学芸員になりたいと思うようになりました。

市長
 そうですか。それで大学で日本史を勉強されたんですね。

春風亭
 はい、そうです。そういえば、今、東海大学の大学生なんです。大学4年生の時に落語家になってしまったので、実は大学を中退しているんです。東海大学の静岡キャンパスに客員教授として講義に行っていたんですが、その時に復学制度というのがあると聞いて、「今から復学して単位を取ったら卒業ですよ」って言われたので、復学をすることにしました。ついこの間の10月から大学生になって、今4年生です。

市長
 それはとてもいいことですね。もう一度、大学生になってみて、どのように感じますか。

春風亭
 大人になって勉強するというのは楽しいですね。やる気が違うんですよ。当時は、親が学費を払っていましたが、今自分で学費を払っているので、やる気が全然違うんです。やっぱり勉強するというのは、当時はあまり分からなかったんですけれど、一度働いてみるとすごく楽しい時間なんだなって改めて気付きました。僕はずっと歴史が好きだったので、歴史の勉強とかお城の勉強とかは大学を辞めてからも続けていたんですよ。自分が好きなものを勉強するのは簡単じゃないですか。でも興味がなかったものをどういうふうに僕が感じるのかなと思ったのですが、意外と面白くて。勉強したことは落語の枕としてしゃべることもできるので、学費を払った元は取りました(笑)。

市長
 大学の落研には入っていないんですか。

春風亭
 落研に入りたかったんですけどね。静岡キャンパスには落研がないんだそうで。

市長
 大学の学園祭に行くと、落研が落語をやっていますよね。落研がないのは寂しいですね。

春風亭
 そうですね。湘南キャンパスの方には落研があって、まだ後輩たちがやっているんです。静岡キャンパスにも昔はあったんですけど、今はないそうです。

市長
 では、落研を作ったら、多分すごい人数の部員が集まりますよ。

春風亭
 そうなんですよね。でも春風亭昇太が落研を作るのもどうかなって(笑)。

落語の楽しみ方

市長
 落語の楽しみ方を教えてください。

春風亭
 落語を難しいと思っている方が時々いて、「どんな勉強をしていったらいいんですか」とか聞かれたりするんですよ。ある人からは、「普通の言葉をしゃべっているんですか」とか言われたり。能や狂言、歌舞伎じゃないので、誰でも分かる普通の日本語をしゃべっていて、何も勉強はいらないですよと。落語は場面を想像して、聴いていただく芸能なので、本を読むのが好きっていう方や、あるいはパソコンなどでいろいろ検索して調べたりすることが好きだっていう方には楽しんでもらえるんじゃないかなと思います。

市長
 落語を聴いている人がそれぞれ自分の頭の中で想像することは大事ですよね。

春風亭
 今は想像しなくてもいい時代になっているじゃないですか。なので、現代人に必要な脳のトレーニングにはなると思います。

市長
 落語を楽しみながら、脳のトレーニングができるというのは高齢者にもいいかもしれないですね。

春風亭
 落語はお笑いの一部みたいに括られているんですけれど、実はそうじゃなくて、どちらかというと演劇なんですよね。落語は世界で最も省スペースでできる演劇なんですよ。演者と演出家の両方を一人でやりつつ物語を紡ぐという、どちらかというとストーリーテラーなんですけれど、テレビを見てる人からはお笑いの一部として見られてしまう。落語家だけでやっている番組だとみんなどのようにしゃべったらいいのかが分かるので、「笑点」はうまくいっているんですよね。

市長
 「笑点」はテレビでやっていますけれど、今は昔ほどテレビで落語をやらなくなりましたね。

春風亭
 落語は基本テレビ向きじゃないのでね。落語はやっぱり想像の世界なので、聴いている方が頭の中で場面を想像しないといけなくて、女性の役でしゃべったり、子どもの役でしゃべったりしてるわけだから、聴く側の想像力が必要なんですよね。テレビはなるべく想像しなくても済むようにできています。普段から落語を聴いている方はイメージしやすいと思うんですが、そうでない方がテレビで落語を見るかといったらなかなか難しいんですね。テレビ向きなところをチョイスしたのが、「笑点」という番組になるんだと思うんです。

市長
 まずは寄席に来て落語を聴いてもらうことが一番ですね。手振りや、叩いたり、音がしたりと実際に感じられますからね。

春風亭
 生で見に来てもらうのがやっぱり一番ありがたいです。僕たちの仕事って、目の前のお客さんに合わせてしゃべる仕事なので、その会場のお客さんに向かってしゃべっているんですよね。その会場に来ていただいた当日にお客さんを見て話す内容を決めているんです。その辺がお芝居と違うところで、ネタは決めずに舞台に上がってから決めるぐらいな感じなんです。頭の中に2、3個ネタを入れてそれで高座に上がって、「枕」と言われる導入部の世間話みたいな話をしながら、こっちのネタが合っているんじゃないかなっていうふうにして選んでしゃべっています。

市長
 私もいろいろなところで挨拶のスピーチをするんですけれども、一生懸命しゃべっていても反応がないときがあって、そのような場合には話を少し変えていくとか工夫をしています。

春風亭
 本当にそれと同じです。このネタをしゃべって、違うなと思うと話を変えてみたりします。いくつかストックがないとね。市長はいろんなところで挨拶されるから大変ですよね。

市長
 そうなんですよ。新年の挨拶では春風亭昇太さんの話題も入れてみようと思います。お客さんの心をつかむときに、他にどういう工夫がありますか。

春風亭
 テレビに出させていただいていると、お客さんが我々の顔は知っているという状況がもうほぼつかみと同じになっています。出てきたところでもう昇太が出てきたっていうことで、つかみをしなくていいというのは、やっぱりテレビにお世話になっているおかげではありますよね。

「笑点」のこと

市長
 いま「笑点」の司会をやられていますが、あれだけのメンバーの中で司会は難しいと思うんですが、いかがですか。

春風亭
 言うこと聞かないんですよね(笑)。

市長
 あれだけのメンバーを束ねていくって大変だと思うんですよね(笑)。

春風亭
 全然束ねられていないです(笑)。

市長
 司会になるというのは結構大変だったんじゃないですか。

春風亭
 本当に僕もすごいびっくりだったんですけどね。

市長
 プレッシャーも相当おありだったんじゃないでしょうか。

春風亭
 そうですね。司会を引き受ける時に「視聴率が下がっても怒らないでくださいね」と言ったんです。ただ、おかげさまで視聴率も良くて。

市長
 「座布団1枚持って来て」とか「1枚持っていって」とか言うじゃないですか。どういう感じで決めているんですか。

春風亭
 「笑点」は公開収録なので、その日その日でお客さんの雰囲気も変わりますし、日によって受け方が全然違うんですよ。テレビだとスタジオで収録している番組もあるじゃないですか。あれはどちらかというとお客さんがすごい協力的で、割となんでもかんでも笑ってくれるんですけど、「笑点」は千人ぐらいお客さんが来ているので、その日によってものすごく受ける時と、大人しいお客さんの時もあって、全然違うんですよね。その日その日で笑いの量であるとか、質が変わるんです。それに合わせて座布団を渡しているので、毎回同じようには座布団は渡せないですね。

市長
 それぞれの落語家にファンの方がいるので、座布団を取らないでみたいなことも言われたりするんですか。

春風亭
 お客さんにはよく言われますよ。私あの人好きだからもっと座布団あげてとか、なんでこの間取ったのって怒られたりしますけど、まあ仕事なんでね(笑)。

市長
 でも楽しくやっていますよね。

春風亭
 楽しいですね。先輩たちは僕が入門した時から僕のこと知っているわけです。だから、流派や所属団体は違うんですけれど、落語家だけでやっているので、なんか分かるんですよね。だから、他の業種の方が入ってたら、ああいう感じにはならないんじゃないかなと思います。

市長
 そうですよね。「笑点」は長寿番組ですので、それを引き継いでいくというプレッシャーや意気込みも相当なものがあると思います。

春風亭
 子どもの頃から見ていた番組なので、そこに今、自分が出てるというのが、ちょっと信じられない気がするんですけれども、本当におかげさまで今も視聴率もいいですし、「笑点」に出てるっていうことで街を歩いていてもいろんな方に声掛けていただいたり親切にしていただいたり、楽しくやらせていただいています。

今年の目標やメッセージ

市長
 今年の目標はありますか。

春風亭
 大学卒業です(笑)。

市長
 最後に狛江市民の皆さんにメッセージをいただければと思います。

春風亭
 僕が住んでいた頃に比べると本当に見違えるくらいに街が発展しました。古墳がある街というのも、他にはない魅力ですので、狛江市民の方にはこれからも大事にしていただけるとありがたいですね。

市長
 今日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。

春風亭
 こちらこそありがとうございました。
 

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