プロフィール

中村 敬さん
 東京慈恵会医科大学附属第三病院病院長。
 東京慈恵会医科大学を卒業し、同大学大学院医学研究科博士課程を修了。東京慈恵会医科大学附属第三病院精神神経科診療部長、同病院副院長を経て、平成26年から東京慈恵会医科大学附属第三病院病院長に就任。東京慈恵会医科大学森田療法センター長を兼務。

災害時について~災害拠点病院としての役割~

市長 あけましておめでとうございます。本日は市内にある東京慈恵会医科大学附属第三病院の院長を務めていらっしゃる中村敬さんにお越しいただきました。本来は緊急医療救護所設置訓練でお目にかかる予定だったのですが、台風で中止になってしまいました。
中村 その後、少し規模を縮小して訓練を実施しました。
市長 そうですか。来年を楽しみにしています。
中村 地元の住民ボランティアの方が参加される、なかなか活気のある訓練です。
市長 狛江市民にとって、心強いことです。災害時の対応は大型の総合病院でないとできないこともありますね。
中村 狛江地域ですと地震以上に、多摩川の増水・氾濫が災害として想定されます。
市長 狛江市の特性としては、多摩川と野川に挟まれています。昭和49年に多摩川の堤防決壊がありましたので、どうしても川の水害が大きいと思います。洗掘というのは多摩川堤防決壊以後ありませんが、昨年は西日本では想定を超えた豪雨災害が発生していますよね。また、台風が多かったですけども、あのような台風が直撃したときに災害が大きくなるということが想定されます。その時に慈恵医大第三病院が我々の後方機関の核として対応していただければと思います。
中村 災害拠点病院の指定を受けていますので、そういう時こそ信頼に応えられるような病院でなくてはいけないと思っています。市長 よろしくお願いいたします。

地域医療と先進的医療を担う病院

市長 慈恵医大第三病院は高次脳機能障害でも先進的でいらっしゃいますよね。
中村 リハビリテーション科の渡邉修診療部長が高次脳機能障害の専門家です。高次脳機能障害のリハビリテーションが系統的にできる所というのはおそらく少ないと思います。
市長 だいぶ前ですが、私は福祉の部署にいたことがあります。その時には高次脳機能障害の方へのサービスやフォローをする機能がありませんでした。相談を受けましたが、なかなか医療制度的な手当てやサービスがなく、相談された方が本当に大変なご苦労されたというのがありました。どうしてもそれがまだ頭の中にあります。
中村 本当は医療から社会復帰や就労などまでの支援が継続できるというのが理想的だと思います。
市長 今では介護サービスなどの手立てができますが、その時は私もいろいろと勉強をし、東京都や国へ連絡を取ったり、お願いに上がったりしました。今は手当ては少し良くなったかと思いますが。
中村 慈恵医大には4つの附属病院がありまして、本院が西新橋にあり、慈恵医大第三病院は3つ目にできた病院ということで第三病院といいます。
 この4病院の中で慈恵医大第三病院は、リハビリテーション科が最初に設置されて、リハビリテーション施設と病棟がある唯一の病院です。リハビリテーションというのは当病院の特徴の一つです。
市長 股関節とか?
中村 そういったこととも関係しています。病院の性格としては急性期の総合病院ですので、大学病院として、先進的な医療を提供するという役割も担っていかなくてはいけません。
 特に、がん診療に力を入れており、東京都のがん診療連携拠点病院としての指定も受けています。病院にがん診療センターを設置していて、さまざまながん患者さんの治療とケア、例えば緩和ケアを含めて力を入れているところです。急性期の医療としては整形外科がかなり重要です。高齢の患者さんが多いため、転倒による骨折や、人工関節への置換が必要な方が多くいます。股関節や膝関節など、人工関節置換術はかなりの数をやっています。そういう整形外科の治療を受けた方をリハビリテーション科が連携をして対応するということもしています。
市長 高齢化が進むとそういう股関節などの治療をされる方も多いです。やはり整形外科の持つ役割は大きいですね。
中村 慈恵医大第三病院は、高齢の方が慈恵の4病院の中でも一番多いです。高齢の方は、複数の病気を抱えている方が非常に多いのです。そうすると、例えば心臓は循環器内科、胃は消化器内科、あるいは泌尿器科にかかっていたりします。複数の科に、あちこち行くだけではかえっていろいろな問題も生じてきます。
 そこで総合診療という、全体を診る医師が必要です。特に初診では全体を見渡した上で、必要に応じて専門科に依頼していくという体制がより好ましいわけです。その総合診療に今の慈恵医大第三病院は力を入れていて、4病院の中で唯一総合診療研修センターを持っています。総合診療医を育成して、総合診療ができる医師を中心にしていくということが、高齢の方にとってもより望ましいでしょうし、あまりに専門・細分化され過ぎないように、対応できるようにしています。
市長 いいですね。
中村 総合診療医が、診療をしながら、病院の中の緩和ケアチームや認知症支援チームにも入っていますし、栄養サポートチームなどもあり、院内の横断的なチームの要となっています。そういうチームを支えているのも総合診療医です。そういった医師たちが増えてくるということが地域の病院としては非常に重要だと思います。
市長 先生にとっては大変ですね。総合的に判断をするため、さまざまな知識が必要になりますね。
中村 若い医師は専門志向になりがちですが、僻地の診療や開業するとなったときには、やはり総合的な診療が必要になってくるので、そういう力を身に付ける努力をしてくれるといいと思っています。

認知症への取組み

市長 ところで先生のご専門は何ですか?
中村 私は精神科医です。
市長 認知症などが専門ですか。
中村 森田療法という、慈恵医大発祥の精神療法が専門です。昔でいう神経症の方たちや経過が長引いて治りにくいうつ病の方が対象になります。
 最近は認知症の方も非常に増えていますので、慈恵医大第三病院の精神科では認知症の診療にも力を入れています。認知症疾患医療センターを平成27年に設置して、東京都の指定を受けています。
市長 地域と連携することもありますね。その森田療法というのは運動もするようなものでしたね。
中村 作業療法が一つの軸になります。作業といっても、みんなが同じことをするような手作業に限らず、生活の中で必要なことを患者さんたちが見つけて取り組むというものです。病院の中でも園芸作業や清掃作業をしたり、動物を飼ったりします。動物の世話も患者さんたちの役割になっています。体育館を利用したスポーツなどもあります。
市長 動物の飼育などもされているのですか。
中村 病棟の中で犬を2頭飼っています。最近病院で患者さんの安らぎということで犬を飼っている施設もあるようですが、病棟内で飼育しているところは少ないと思います。
市長 高齢者施設でも動物を飼われたり、あるいはロボットを置くなどされていますね。
中村 患者さんが交替で犬の世話をしています。それから、伝書鳩の小屋を建てて飼育していて、患者さんが放鳩訓練も行っています。鳩を連れ出して、最初は近距離から離すとすぐ本能で巣に帰ってくるんですが、徐々に距離を伸ばして、かなり遠くから離しても戻ってくるように訓練します。高尾山ぐらいまで行きます。電車に乗ることが不安だった人も仕方なしにやっているうちに、電車に乗れるようになっていたなどの変化が起こってきます。
市長 非常にいい効果があるんですね。認知症にならないような手立てのようなものはないのでしょうか。
中村 一つは早期発見して治療を始める、二次予防という考え方があります。最近では認知症の進行を少し遅らせる薬も何種類か出てきています。しかし、あまり進行してしまった状態では効果が期待できません。早めに飲み始めていると、進行を止めることはできないけれども進みが緩やかになります。
 もしも軽度の認知障害程度の方で、心配であれば、本人・家族がまず認知症疾患医療センターの電話相談窓口へお問い合わせしていただきたいです。検査が必要であれば相談員がその助言をします。受診されることになった場合には慈恵医大第三病院では精神神経科と神経内科と脳神経外科が連携して、いずれかの科で診察をして検査をします。認知症という診断が下れば、早めに認知症の薬を処方するというような体制をとっています。
 認知症になる前の一次予防としては孤立した生活や身体の障害で行動範囲が狭まってしまうことなどが認知症の危険因子になってきます。健康をしっかりと守っていくということと、なるべく孤独にならない生活スタイルを営むことができればよいかと思います。
市長 市としては高齢者が外に出られるような支援や生きがいを持てるような策などが必要になると思うんですよね。
中村 市役所の方と当院の認知症疾患医療センターの担当スタッフとは、いろいろと連携して相談させていただいています。
市長 医療・警察・ケースワーカーが密接に連携させていただいています。
中村 認知症初期集中支援チームに当院の精神科の医師も参加しています。

地域の健康を守る病院

市長 アレルギー疾患や食物アレルギーの方がいらっしゃいますが、慈恵医大第三病院と給食の関係で連携させていただいています。
中村 アナフィラキシーホットラインですね。数年前に調布市の児童が給食の食物アレルギーで残念ながら亡くなってしまったことがありました。それが契機となって、狛江市・調布市・慈恵医大第三病院とで相談をして、学校あるいは保育施設から、日中であれば小児科のアレルギー担当医師が直接電話でアドバイスを送れるという体制をつくりました。
市長 連絡すると適切な処置をお話いただけるということで、大変心強く、症状によっては病院にすぐ来るようになどの指示をいただけるということで、重症化する前の対応ができることがありがたいです。
中村 慈恵医大第三病院は大学病院であるとともに、地域の中心になるべき病院ですから、そういった形で地域の方の健康を守るという役割を担っていくことが我々の使命だと考えています。
市長 やはり狛江市民にとって緊急的な症状や重症化してしまってくると、大型の病院があると心強く感じます。今度、建て替えをされると伺ったのですが。
中村 今の病院の本館ができたのが昭和45年ですので、50年近い建物です。今の予定では2023年の秋には新しい病院が竣工していて、2024年1月からは全面オープンする予定です。そのための基本構想を練っている最中です。
市長 今の病棟を建て替える時にはどこか他の所で対応されるのですか。
中村 幸い敷地が広くありますので、今の病院を運用しながら少しずらしたところに病院を建てます。完成して移転したら古い病棟を壊すことが可能です。そういう意味では、市民の皆さんに大きな迷惑をお掛けすることはないと思います。
市長 市民も安心ですね。
中村 新しい病院では、やりたいことがいろいろと出ていますが、先ほど市長さんがおっしゃっていた災害時の対応については、大勢の方を効率よく重症・軽症者に分けて対処する充分なスペースや軽症の方がお休みいただけるような空間を作ることも設計段階では考えていくつもりです。
市長 最近はAIなどが出てきていますが、医療は今後どのような形になっていきますか。

共感と思いやり

中村 AIが医療の中に組み込まれていくのは必然の流れだと思います。私は精神科医ですから、AIというものはイメージしにくいところがあるのですが、例えば画像診断のような領域は今でも随分AIが役立っていると思いますし、さまざまな領域でAIに関わる部分があると思います。しかし、医療というのは人対人です。いかにロボットが設置されていても、病院にやって来る不安な患者さんが安心できるためには、人がちゃんと共感をもって対応するということがなくてはならない。これは医療の原点であり、AI化されても、そこの部分が残っていくんですよね。
市長 病院に行って、先生と直接お話させていただけると安心できますね。人と人とのつながりがないとやはり安心できないですね。
中村 全てが機械化されていったら、仮に適切な処方薬が出てきたとしても不安は拭えないんじゃないかと思いますね。
市長 院長先生の専門分野は特にそうですね。
中村 そうですね。3年前から、慈恵医大第三病院は「共感と思いやりに基づく医療の推進」を掲げていまして、教職員は具体的な行動目標をカードにして携行しています。患者さんの気持ちに寄り添うとか、お辛そうな方がいたら、少し長くその場に留まり一声掛けるとか、さまざまな形で共感と思いやりを現実に伝えられるような医療を行っています。
市長 いいですね。院長先生からお話いただいた共感と思いやりは、私の基本的な姿勢につながります。人にやさしいまちづくりをしていきたいと考えており、まさにぴったりですね。いいお話をいただきました。
中村 狛江市の目指すところと、慈恵医大第三病院が目指すところに共通点があるんですね。
市長 ありがとうございます。それでは最後に、新年の抱負や市民の方へ伝えておきたいことがあればよろしくお願いします。
中村 私は平成26年に院長に就任しました。教職員が地域の中での役割をしっかりと自覚し、もっともっと地域のための病院であろうと思っています。そのためには、共感と思いやりをもった医療を推進していくことと、救急受け入れ態勢をさらに改善していきたいと思っています。また、新病院竣工に向け、より地域の方が利用しやすく、安心できる病院環境を作ろうと思っていますので、大いにご要望を寄せていただきたいと思っています。病院がさらに地域の皆さんの役に立つように、多くの声を寄せていただくのが一番だと思います。
市長 ありがとうございます。これからも狛江市民の生命をお守りいただいて、そして健康助言をよろしくお願いします。
中村 こちらこそよろしくお願いします。