令和6年1月1日号6・7面(1381号)
新春対談
プロフィール
中畑清さん
1975年にドラフト3位で読売巨人軍に入団。〝絶好調男〟として活躍。労働組合日本プロ野球選手会初代会長に就任。1989年に現役を引退。
2004年アテネオリンピック野球日本代表ヘッドコーチ兼監督代行として銅メダルを獲得。2012年から2015年まで横浜DeNAベイスターズ監督を務める。
現在は野球解説者、野球評論家として活躍中。
狛江市とのつながり
市長
あけましておめでとうございます。本日は元プロ野球選手の中畑清さんをお招きしています。狛江市民の皆さんからすると、中畑さんと狛江市にどんな関係があるのか不思議に思う方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。
中畑
そうですよね。お隣の調布市に長らく住んでいるので、狛江市のことはもちろんよく知っていて身近な存在ではあるんですが、直接的なつながりが生まれたのはここ最近のことなんです。
市長
実は、中畑さんには令和3年から「狛江市立学校第三者評価委員会」の委員として、狛江市内の小・中学校の教育活動や学校運営の状況について、客観的立場から評価していただいています。だから、実際に学校の現場にも赴いて、狛江の教育をしっかりと見ていただきました。
中畑
委員の任期は今年度いっぱいで終わりますが、私自身この3年間で勉強になりましたし、非常に刺激を受けました。適当に仕事をこなすのは嫌いな信条なので、狛江のために一生懸命頑張りましたよ!
市長
そして、意外なところでは、狛江市はDXの分野で中畑さんのご出身である福島県矢吹町とも現在共同事業を行っているところです。
中畑
え!それは知らなかったな!自分の故郷が狛江と一緒になってやっているというのは非常にうれしいことですね。
市長
さらに個人的な関係性で言えば、実は出身大学が同じ駒澤大学という。
中畑
先輩後輩の関係ですね。
市長
私より体も声も大きいこともあり、後輩ではなく不思議と先輩という感じが…(笑)。
中畑
そんなことないですよ!先輩は永久に先輩ですから!(笑)
市長
もちろんそれは冗談ですが、そんなこともあって中畑さんとのご縁はいろいろと大きいんですよね。もう一つ、中畑さんの関係でのご縁としては、狛江市は読売巨人軍と相互協力に関する協定を締結していて、選手たちに市内の小学校等で定期的に野球指導の授業を行っていただいているんです。
中畑
そんなご縁もあったんですか!ジャイアンツはこれだけ長く東京に地盤を置いている球団なので、狛江に対してももっともっと還元をしていかなきゃいけないと思いますよ。
市長
狛江市民をジャイアンツ球場に招待していただく「狛江市フェスタ」といったイベントもありますし、幅広くお力添えをいただいています。
中畑
そういうチャンスをもらえて、逆にジャイアンツとしても喜んでいるはずです。狛江市との交流を積極的に進めてほしいと、OB会長としても強くお願いしていきますよ!
狛江の教育
市長
「狛江市立学校第三者評価委員会」の委員として、狛江市の教育現場を実際にご覧になってみていかがでしたか。
中畑
実際に現場を見たところ、子育てや教育に対する意識の強さを感じました。もちろん都内の学校すべてを見たわけではありませんが、教育環境という面でも狛江は東京の中でも非常に良い街なんじゃないかと思いますよ。
市長
教育長からもお話を伺ったところ、中畑さんは教育者の視点とは異なる視点で見ていただき、非常に新鮮で良いご意見をたくさんいただいたとのことでした。中畑さんからのご指摘にしっかり対応していけば、子どもたちをもっと生き生きと育んでいくことができるのではないかと思います。
中畑
一番大事なのは授業に対して、子どもたちが目を輝かせているかどうか、楽しんでいるかどうかといった空気感ですね。それは何か演出して出来上がるものではないですから。僕が入っていったら、よそよそしい雰囲気になるんじゃないかなと少し不安に思っていたけど、何も空気が変わらなくて。いつも楽しみながら授業をしているんだなっていう空気が伝わってきて、非常に良かったですよ。
市長
中畑さんの言葉に、子どもたちや先生たちも誇らしく感じますし、うれしくなるはずです。
中畑
視点を少し広げると、自然環境も良いのが狛江の特徴の一つだと感じますね。
市長
市内には多摩川が流れ、緑地も点在していますし、伸び伸び育つ教育環境だと思います。
中畑
狛江には畑も多いですよね。僕は野菜大好きなんですよ!
市長
その一方で、狛江市は早い段階で教育分野にICTの環境を導入しました。
中畑
学校でタブレットなんてどうやって活用しているんだろうと思っていたけど、子どもたちにはきちんと浸透していましたね。
市長
やっぱり子どもって順応性があるんですよね。今は社会も目まぐるしく変化する時代です。子どもたちが社会に出た時にすぐ順応できるような準備を、狛江市としても全国に先駆けて進めていかなければいけないと考えています。
中畑
何事も大事なのは良い準備がどうできるかどうかです。子どもたちが「みんなで一緒に頑張るんだ!」って思える雰囲気をつくり上げるには、「良い準備」を進めておく必要があると思います。
市長
大人たちの役割として、子どもたちの不安をいかに取り除いてあげるかが重要になりますね。
アテネオリンピックの経験
市長
以前のお話になってしまいますが、2004年のアテネオリンピックの時に、中畑さんは長嶋茂雄さんの代行として監督を務め、日本を背負われました。当時を振り返ってみて、どんなお気持ちで臨みましたか。
中畑
今でこそ、こんなにリラックスして喋っていますけど、あの1~2年ぐらいは全く冗談も言えなくて、プレッシャーのど真ん中に漬かっていましたね。「明るく生き生き元気よく、絶好調です」なんて、自分のキャラクターもセールスポイントも大体分かっているのに、その良さを一つも出せない…。見方を変えると、選手たちもプレッシャーの中にどっぷり入っているわけですよ。
市長
周りからは勝つことが求められ、むしろ勝って当然だという空気ですよね。
中畑
それを選手たちに意識させ過ぎちゃったかなっていうくらい、自分が意識してしまっていました。当時のヤクルトスワローズの宮本慎也から、「中畑さん、こんなすごいプレッシャーをよく引き受けましたね。だったら、このプレッシャーを僕たちと分かち合いましょうよ!」って言われて、心の底から本当に救われました。
市長
温かいすてきな言葉ですね。中畑さんが精神的に参っていた時に掛けられた言葉だからこそ、本当に心に染みたんじゃないでしょうか。
中畑
こんな喜びないですよ。それまで突っ張っていた緊張感がスーっと肩から抜けて、「ありがとう!一緒に頑張ろうな!」って、素直な気持ちで言えました。あの言葉がなかったら僕はつぶれていたと思います。コーチたちにも恵まれていましたし、良いチームでしたね。
市長
お互いに信頼し合える選手やスタッフたちに囲まれていたんですね。
中畑
その後、横浜DeNAベイスターズで監督をさせていただきましたが、アテネオリンピックの経験が非常に生きました。残念ながらあまり勝てなかったけど、野球界でこういう監督がいてもいいんじゃないかっていう役割をこなすことができたのは、この時の経験があってこそですよ。
市長
監督として日本代表を背負うことになったのは予期せぬことだったと思いますが、中畑さん自身にとって非常に大きな財産になっているということですね。そういう意味では、人生の中で「流れ」ってありますよね。そのタイミングで、チャンスを逃してしまう人としっかりとつかむことができる人がいます。
中畑
だからこそ、何事も動いてみないと分からないってことだと思います。まずは行動ですよ。良いものも悪いものも出てくるかもしれないけれど、行動力で人生は変わってくる。
市長
私も全く同じ考え方です。成果はひとまず別にして、まずは行動ですよ。悪いものも結果的に勉強になるんですから。
中畑
そう!だから、出会ったすべての人が指導者ですね。これまでの人生の中で、良い指導者たちに巡り合えてきたなって感覚があります。特に長嶋茂雄さんは、いつまでも僕にとっての憧れです。誰にでも変わらない対応をするあの優しさを見て、本当に太陽のような方だと思っています。
指導者の立場として
市長
横浜DeNAベイスターズで監督を務められた4年間で、指導者として強く心掛けたものはありますか。チームという組織であっても、土台となるのは人ですよね。
中畑
仰る通りです。一人一人が人として成長しなければチームも成長しません。チームづくりは人づくりだと常々思っています。
市長
チームをまとめるためにどういった工夫をされましたか。
中畑
指導者となって感じたことは、下からの意見って本当に大事なんですよね。それを上から目線で押さえつけてしまうような空気だけはつくっちゃいけないと思っています。常にコミュニケーションを取りながら、みんなが意見を言いやすい空気をつくることをとにかく心掛けました。
市長
残念ながら、世の中には下が頑張ってやったものが潰されてしまうこともあるじゃないですか。
中畑
ずっと変わらないことを良しとするのは、今の時代に沿わない考え方ですよ。守っていかなければいけないことと、変えていかなければいけないことをしっかり区別していくことが大切です。
市長
安全圏にさえいれば良い人生を送れると思っている人たちは、何か事が起きても自分には関係ないという他人事目線になってしまう。
中畑
行動しないで、結果だけ見て非難するという…。そういう人には本当に腹が立つんですよ!そこにくさびを打って、空気を変えていくには、指導者がどういう行動をしていくかがとても大事なんです。それができるのは発信力のある、上に立っている人だけです。
市長
下の意見を正確にくみ取る必要がありますし、キャッチした時にはきちんと行動しなければいけないですよね。中畑さんのような人は下からも周りからも慕われて、頼み事もいろいろされるんじゃないですか。
中畑
お願いされたことを断らないという人生もあるんじゃないかと。断ってしまった結果、悔いを残したまま人生が終わってしまうかもしれないですから。だから、「義理、人情、恩返し」が自分の人生における一つの大きなポリシーになっています。
市長
「義理、人情、恩返し」という考え方は、中畑さんにピッタリですよね。人とのつながりを大事にしている中畑さんの人となりを端的に表している言葉だと思います。だからこそ、今までのお付き合いの過程で、本当に断れない時もありますよね。この人に頼まれたら断れないなってこととか。
中畑
絶対断れないのは、長嶋茂雄さんと渡邉恒雄さん。この方々にノーは言えないですね(笑)。
市長
でも、逆に中畑さんから頼まれてノーを言えない人もいるんじゃないですか(笑)。
中畑
それはごまんといますね!…って、変なことを言わせないでくださいよ(笑)。
狛江市民へのメッセージ
市長
最後に狛江市民の皆さんに、ぜひメッセージをいただければと思います。
中畑
近い人ほど遠かったりすることがありますが、今回狛江市とつながりができたことで、近い人ほど近くなったと感じています。狛江市とご縁ができて本当に良かったです。教育の世界の一端ではありますが、実際に携わらせてもらって、子どもたちや先生方、それを評価する人たちとも一緒に働いてみて、みんな真剣に一生懸命頑張っているのが伝わりました。「一生懸命」って、僕は一番好きな言葉なんです。活力や元気がなかったら、毎日がつまらなくなってしまいます。狛江からはその「気」を全体に感じ取ることができました。僕自身、非常に好きな街になりました。
市長
中畑さんにそこまで仰っていただけて、私も非常にうれしい気持ちになります。これからの未来を担っていく子どもたちには、どのように育ってもらいたいですか。
中畑
ITが進んだ社会であっても、自分の汗水流して泥んこになって土の匂いを嗅ぎながら育ってほしいという気持ちがあります。このギャップをどう埋めるか、僕はスポーツしかないと思っています。
市長
確かに辛いことを頑張って達成することは、教育の中でとても大事なことですね。
中畑
免疫力のない子どもたちが多いというのは、裏を返せば抵抗力が育っていないということですよ。それを分かりやすく教えてくれるのはスポーツなんです。一つのスポーツじゃなくて、たくさんあるスポーツをいろいろと経験してほしいと思います。
市長
人間教育において、スポーツの役割は大きいと私も思います。勉学とともに、心技体を鍛えながら成長してほしいですね。
中畑
スポーツはルールやマナーを教えてくれる場でもあると思っています。そのためにも指導者の存在が大切なんです。例えば、中学校に野球を筆頭に指導者が不足しているというのが今問題になっていますが、指導者をいかに育てていくかが非常に大きなテーマなんですよ。
市長
中畑さんが仰る通り、スポーツには人間教育の原点がありますよね。
中畑
スポーツは人を育てます。スポーツによる人づくりの魅力をたくさんの人に伝えていきたいですね。
市長
挫折もあれば喜びもある。そういうものをスポーツで経験しながら、子どもたちには逆境にめげず、社会に出ていけるような環境づくりをしていきたいですね。
中畑
野球界はもちろんのこと、私もまだまだ恩返ししていきます!
市長
中畑さんのお話を伺っていると、エネルギーをたくさん分け与えてもらえます。今後も狛江のことを応援していただけたらと思います。中畑さんは野菜も大好きというお話でしたので、今度は狛江のブランド農産物もぜひ召し上がっていただきたいと思います。
中畑
ブランド農産物なんてものがあるんですか!大好きな街がもっと大好きになってしまいますね!(笑)
市長
野菜が大活躍する鍋の季節でもあるので、食を通じた狛江の魅力もぜひ体感していただきたいと思います。改めまして、本日はありがとうございました。
中畑
こちらこそありがとうございました。引き続き狛江のことを一生懸命応援していきますよ!
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