狛江尋常高等小学校尋常科 昭和14年度卒業生の文集「思い出」より

 学校は狛江駅北口前にあった。駄倉の店で新しい教科書を買って、校庭の桜がきれいに咲くと1学期が始まる。
 児童の服装は男子は和服が多く、女子は洋服が多い。次第に和服から洋服への切り替えの時期だったのだろう。騎馬戦でさえ和服で行っている。
 先生方は男性は背広、女性は羽織はかまだった。
 校庭の桜を越えて流れてくるオルガンの響きとみんなの歌声が聞こえる。校舎はみな木造。授業が終わると清掃の時間。机と椅子を片寄せて、みんなで床を拭く。お尻を高く上げて廊下の雑巾掛けをする時のトントンという足音、いつの間にか並んだ友達と競争になる。
 旗ざおの右側が職員室。ガラス窓ががらりと開いて先生が誰かを呼んでいる。
 初夏になると嬉しい嬉しい鮎釣りができる。弟たちを連れてボートに乗って魚を釣った。あちらこちらに列をつくって釣りをしているよその人のさおには大きな鮎がかかっている。
 犬も初夏の日に浮かれながら水の中に入って人の釣る魚を眺めている。どのさおも日に照らされて光っている。毎日鮎釣りができて楽しい日が過ごせる。
 魚捕りは楽しい。川の真ん中に網を張る。フナを捕った。たくさん捕れた。
 夏はとても暑いがヒマワリは夏は俺が一番だと咲いている。庭の真ん中の元気なヒマワリ。
 河原に行ったらいくつも夕顔が咲いていた。赤いのや黄色いのや、きれいな花が咲いている。土手から下を見ると月見草が真っ黄色に咲いていた。すぐにおりてたくさん取った。川の所まで行くと蛍がたくさん飛んでいた。つかまえて家に帰った。
 林で鳴くセミの声、川では朗らかに人の声。静かに流れる川の音、ああ夏休みだ。
 家の脇の電線にツバメがピイピイ鳴いている。ちょくちょく線を伝わっている。
 真っ黒な雲、夕立が来そうだ。雲はますます広がる。もう空は一面真っ黒だ。ポツリポツリと大粒の雨が降ってきた。
 夜はもう真っ暗だ。所々に電灯がついているだけだ。風が顔に当たった。森のそばを通ると揺れる木々がガサガサ鳴っている。しばらく行くと勇ましい音を立てて電車が走っていく。駅まで来ると赤々として木の陰が美しくゆらゆらと動いていた。
 空には星が光っている。風が通り、私の顔に当たる。電車には明かりがピカピカ光って乗っている人の顔を照らしているようだ。どこから来たのか夜の電車。狛江の方へ走っていった。
 土曜日に私は兄と東京に行った。喜多見から乗って、新宿で降りて、それから先は他の電車に乗り換えました。

 井上 孝
(狛江市文化財専門委員)